東京地方裁判所 昭和37年(ワ)3138号 判決 1964年2月14日
原告 株式会社 毎日新聞社 外一名
被告 佐藤一晴 外一七名
主文
東京地方裁判所昭和三六年(フ)第一八九号破産者株式会社正路喜社に係る破産事件について、原告株式会社毎日新聞社の破産債権が二億二、八八三万三、一三五円であり、原告株式会社東京放送の破産債権が七、七六五万三、二二八円であることを確定する。
原告株式会社毎日新聞社のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告等の負担とする。
事実
(当事者の求める裁判)
第一、原告等の求める裁判
東京地方裁判所昭和三六年(フ)第一八九号破産者正路喜社に係る破産事件について原告株式会社毎日新聞社の破産債権が二億二、九四二万一、七一八円であり、原告東京放送の破産債権が七、七六五万三、二二八円であることを確定する。
訴訟費用は被告等の負担とする。
第二、被告等の求める裁判
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
(当事者双方の主張)
第一、原告等の請求原因
一、訴外株式会社正路喜社は東京地方裁判所昭和三六年(フ)第一八九号破産事件について昭和三六年一一月一七日破産宣告決定を受け、右破産債権の届出期日が同年一二月九日に定められた。
二、原告両名は、右破産者に対する破産債権者であるが、右届出期間内に同裁判所に破産債権の届出をし、同裁判所書記官はこれを債権表に記載した。
三、原告株式会社毎日新聞社が破産者に対して有する破産債権は次のとおりで合計二億二、九四二万一、七一八円である。
(一)、売掛金債権(新聞、雑誌等の広告掲載料債権)二億二、〇一三万一、〇九九円
1 原告株式会社毎日新聞社は破産者からの申込による新聞等の広告掲載を継続的にしてきたが、昭和三五年一二月一日から昭和三六年九月三〇日までの間に右破産者からの申込を受けて日刊新聞紙「毎日新聞」の東京版・大阪版・中部版・西部版・北海道版、日刊新聞紙「スポーツニツポン」の大阪版・東京版、「毎日新聞縮刷版」、週刊雑誌「サンデー毎日」、旬刊雑誌「毎日グラフ」にそれぞれ広告を掲載した。その広告掲載料は別表<省略>A記載のように合計二億九、五九二万三、二八三円である。
2 右の広告掲載契約は右原告と破産者との間で締結されたものである。破産者は広告依頼主より依頼を受けて、右原告に対して広告掲載の申込をするが、本件広告掲載契約の当事者は原告と破産者であり、破産者は広告依頼主の支払の有無にかかわりなく右原告に対し広告料金支払の義務を負うのである。広告依頼主は右契約の当事者とはならず、右破産者は自己の名をもつて広告依頼主のために広告掲載契約をするのを業とする。広告依頼主の間接代理人(準問屋)の関係にある。
3 前記広告掲載契約において右原告と破産者との間の代金支払は、原則として毎月一日から一五日までに前記新聞雑誌に広告が掲載されたものは一五日〆切、同月末日払とし、一六日から月末までに前記新聞雑誌に広告が掲載されたものは月末〆切、翌月一五日払とし、右代金の支払は現金をもつてなされることになつていた。
4 右広告掲載契約において広告掲載料は各広告紙面ならびに広告掲載部位により所定の料金率により決定されるのが原則であり、このような所定の料金率によつて計算される広告掲載料金総額は建値と呼ばれる。
5 右原告と破産者との間には、右広告掲載契約上の掲載料代金(建値)から一定率の手数料相当額を右破産者に割り戻す特約があり、この「割戻」の率は掲載される新聞、雑誌の種類等により異なるが、右原告は破産者から、前記「建値」から「割戻」を控除した金額(正味)を現実に受領することになつていた。
6 前記新聞雑誌に昭和三五年一二月一日から昭和三六年九月三〇日までの間に掲載された右広告掲載料金合計二億九、五九二万三、二八三円に対する割戻の額は別表A記載のように合計五、五〇九万二、一五五円である。よつて右の建値から割戻を控除した額は二億四、〇八三万一、一二八円であるが、破産者は右原告に対し昭和三六年八月七日から同年九月三〇日までの間に別紙A記載のように右広告掲載料として合計二、〇七〇万〇、〇二九円を支払つたので、右原告が右破産者に対して有する破産債権としての広告掲載料債権は二億二、〇一三万一、〇九九円である。
7 被告等は原告等が右破産者に対して有すると主張する広告掲載料債権の額(建値)が右破産者が広告依頼主に対して有する債権額より大であると主張しているが、これは右破産者が広告依頼主に対してダンピングをしていたものと推測される。
(二)、貸金債権 四三〇万円
右原告は破産者に対して昭和三七年七月五日二、〇〇〇万円を支払期日同年九月五日一、〇〇〇万円、同年一〇月五日、一、〇〇〇万円、とする約束で貸し付け、現金を交付し、右破産者から同年九月五日に一、〇〇〇万円、同年一〇月五日に五七〇万円の弁済を受けた残額である。
(三)、手形割引料債権 四九九万〇、六一九円
1 右原告と破産者の間には右原告が破産者から各種売掛代金の支払のために交付を受けた約束手形について右原告が銀行から手形の割引を受けた場合に、右原告は右手形割引料相当額を全額破産者から償還を受けることができる旨の特約がかなり古くからあり(少くとも昭和三四年一二月末日以前に右合意成立)、右債権は右の特約に基ずき、昭和三五年一二月一日から昭和三六年九月三〇日までに発生したものである。
2 このような特約がなされたのは、右原告は破産者に対し、前記の広告掲載契約に基ずき広告掲載料債権を有し、右は履行期に直ちに現金をもつて支払わるべき性質のものであつたが、右破産者の金融操作上の都合により、右支払のために相当期間後の日を支払期日とした約束手形を振り出し、これを原告に交付するようになつたからである。
四、原告株式会社東京放送が右破産者に対して有する破産債権は次のとおりで合計七、七六五万三、二二八円である。
(一)、右原告は破産者からの申込によるラジオテレビの広告放送を、右原告会社創立以来してきたが、昭和三六年三月一日から同年九月三〇日までの間に、破産者から申込を受けて右原告が営業とするラジオ・テレビの広告放送をした。その広告放送料は別表B記載のように合計一億六一〇円である。
(二)、右の広告放送契約は右原告と右破産者との間で締結されたものでその契約の性質およびそれによる責任の関係は毎日新聞社と破産者との場合と同様である。
(三)、前記広告放送契約において右原告と破産者との間の代金支払は原則として毎月一日から一五日までに広告放送したものは一五日〆切り同月末日払とし、一六日から月末までに広告放送したものは月末〆切翌月一五日払とし、右代金の支払は現金をもつてなされることになつていた。
(四)、右広告放送契約において、広告放送料は各ラジオ・テレビの別ならびに広告放送の種類により所定の料金率により決定されるのが原則であつた。
(五)、右原告と破産者との間には右広告放送料総額から一定率の手数料相当額を割り戻す特約があり、この「割戻」の率は広告放送の種類により異なるが右原告は右破産者から前記「建値」から「割戻」を控除した金額を現実に受領することになつていた。
(六)、前記ラジオ・テレビに昭和三六年三月一日から同年九月三〇日までの間に放送された右広告放送料金合計一億六一〇円に対する割戻は別表B手数料欄記載のように合計一、六三二万七、八一五円である。よつて右原告が破産者から現実に受領しうる広告放送料は八、三六七万二、七九五円であるが、右原告には破産者に対して支払うべき別表B記載の出演料・広告料債務があるので、右債務三〇万円を相殺控除し、さらに右破産者から右原告に対し昭和三六年五月一日から同年九月三〇日までの間に五七一万九、五六七円を支払つたので、これを控除すると七、七六五万三、二二八円となる。
五、原告等の右破産債権については昭和三七年二月一三日の債権調査期日において破産管財人は本件破産債権の全額を認め、また被告等(その後異議を取下げたものを含む)以外の破産債権者はいずれも異議がなかつたが、被告等を代理する中村洋二郎は異議を述べた。
六、よつて原告株式会社毎日新聞社の右破産債権が二億二、九四二万一、七一八円であり、原告株式会社東京放送の右破産債権が七、七六五万三、二二八円であることの確定を求める。
第二、被告等の答弁
一、請求原因事実第一、第二、第五項は認める。
二、請求原因事実第三項中
(一)、(一)の1、2は否認する。
1 原告毎日新聞社と右破産者との間には広告掲載契約は存在しない。右契約は右原告と広告依頼主との間に存するものであり、破産者は右原告と広告依頼主との間の広告掲載契約が成立するように媒介し、その手数料を取得するのみであつて、商法上いわゆる媒介代理商である。現に破産者が経営不振となつた昭和三六年九月原告等は同年一〇月分以後の広告料は広告依頼主から直接支払をうけることを決定し実行しているし、原告等と破産者との間に広告掲載契約が存在するとすれば仲介手数料の存在を説明することができない。原告等代理人酒巻弁護士も右破産者の破産管財人に対し、原告等の広告料債権は広告依頼主に対して直接有する債権であるとたびたび主張した。
2 右原告は水増請求をしている。すなわち同一の広告掲載について、破産者が広告依頼主に対して請求している金額よりも、右原告が破産者に対して有していると主張している広告掲載料債権の方が大である。この点について原告等は破産者がダンピングしていたものと主張するがそのような事実はないし、かりにそうだとしても原告等の同意を得て広告掲載料を値下げしたものである。しかして昭和三六年八、九月分の右原告の水増請求額は少くとも二二五万二、二八八円である。
(二)、(一)の34は不知。
(三)、(一)の56は否認する。ただし右破産者の右原告に対する入金の部分は不知。なお割戻というのは右原告と広告依頼主との間の広告掲載契約の成立を破産者が仲介することによつて得る仲介手数料である。
(四)、(二)のうち右破産者が右原告に五七〇万円を支払つたことは認めるがその余は否認する。
(五)、(三)は否認する。
三、請求原因事実第四項中
(一)、(一)(二)は否認する。広告放送契約の当事者は原告東京放送と広告依頼主であり、右破産者は媒介代理商としてこれを仲介するにすぎない。また右原告は水増請求をしており、昭和三六年八、九月分についての水増請求の額は少くとも四六九万八、一三〇円である。以上の諸関係は毎日新聞と破産者との関係について被告等が主張したところと同様である。
(二)、(三)(四)は不知。
(三)、(五)(六)は否認する。ただし右原告が右破産者に対して支払うべき債務があるとの点は不知。
第三、被告等の抗弁
一、原告等の売掛金債権は相殺によつて減額されている。
(一)、原告等は昭和三六年九月末ごろ同年一〇月分以降の破産者が取扱つた広告の広告代理を広告依頼主から直接その支払をうけ、その中から仲介手数料を破産者に返還すること(原告等が破産者に対して有すると主張する昭和三六年九月分までの債権と対当額で相殺すること)をきめ、そのころ破産者に対し右相殺の意思表示をした。しかして原告毎日新聞社、同東京放送に対し破産者が有していた右一〇月分の仲介手数料額は少なくともそれぞれ三七九万九、九七九円および九二万一、一三二円である。
(二)、仮りに右単独行為としての相殺の意思表示がなかつたとしても、原告等と破産者は同年九月末ごろ、破産者の有することの確実は同年一〇月分の原告等に対する仲介手数料債権をもつて、原告等が破産者に対して有すると主張する売掛金債権の一部と相殺する旨の契約を締結したものである。
二、原告等が破産者に対して有すると主張する債権が仮りに存在するとしても、原告等が右債権を破産者に対して主張することは権利の濫用として許されない。原告等は自己の独占的利益をはかるために破産者を破産に陥し入れ、破産者、その従業員、他の多くのその債権者に物心両面で多大の損害を与えた。しかも破産者が強制和議により再建されるという段階になると争議中の右労働組合を破産者の営業用建物から追い出そうとし、一方昭和三六年一〇月分の賃金、解雇予告手当、退職金が被告等に支払われるのさえ妨害している。このように原告等のため多くの人が大きな損害を受けている。
第四、被告等の抗弁に対する原告の認否
一、被告等の相殺(単独行為、契約とも)に関する主張事実は否認する。
二、被告等の権利濫用の主張はこれを争う。
(証拠関係)省略。
理由
一、請求原因事実第一、第二、第五項は当事者間に争いがない。
二、(広告料債務についての破産者の責任)
証人松森鉄郎の証言(第一、二回)およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一六号証の一、二、同川名正一の証言、被告本人佐藤一晴尋問の結果(第一、二回)によれば前出破産者はその取り扱つた原告毎日新聞社等諸新聞社の発行する新聞、雑誌や原告東京放送等の放送するラジオ、テレビの広告についてその広造依頼主に対して自己の名で右広告料を請求していたこと、原告等は破産者の取り扱つた広告について破産者に対し広告料の請求をなしていたこと、破産者は原告等に対し広告依頼主の破産者に対する右広告料支払の有無にかかわらず、原告等に対し右広告料を支払わなければならなかつたこと、右の関係は原告等と破産者との間に広告に関する取引が開始されて以来長期間にわたつて行われてきてすでに確立されているものであつて、極めてまれに例外があつた外、破産者の倒産後短期間これまた例外的にいわゆる直扱があつたに過ぎないことが認められる。そうだとすれば、右のような特別の契約関係が原告等と破産者との間に成立しており、原告等は破産者に対しその取り扱つた広告の代金を請求する権利があるという外はなく、この現実の契約関係を離れて抽象的にいわゆる広告代理業の法律的性格を準問屋と定義すると、媒介代理商と定義するとは本件においては問うところでなく、原告等訴訟代理人が右破産者の破産管財人に対し右広告代金債権について取戻権を主張したことがあろうとも、それは誤解に出たものというべきである。
三、(原告毎日新聞社の債権)
(一)、(広告掲載料債権)証人永山昌一の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証の各一、二、証人杉山秀夫の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第六ないし第一〇、第一二ないし第一四号証によれば、原告毎日新聞社は右破産者からの申込を受けて昭和三五年一二月一日から昭和三六年九月三〇日までの間に日刊新聞紙「毎日新聞」の東京版、大阪版、中部版、西部版、北海道版、日刊新聞紙「スポーツ、ニツポン」東京版、「毎日新聞縮刷版」、週刊雑誌「サンデー毎日」、旬刊雑誌「毎日グラフ」にそれぞれ広告を掲載し、その広告掲載料は別表A記載から「スポーツニツポン」大阪版を除く合計二億九、五一八万七、五五七円であること、原告毎日新聞社と右破産者との間の右の広告代金支払は原則として毎月一日から一五日までに前記新聞雑誌に広告が掲載されたものは一五日〆切同月末日払、一六日から月末までに前記新聞雑誌に広告が掲載されたものは月末〆切同月一五日払となつていたこと、右の広告掲載料は広告掲載部位等により一定の料金率が原告毎日新聞社と右破産者との間できまつていたこと、右掲載料から一定率(広告掲載部位等により異なる。)の手数料相当額を右破産者に割戻す特約が右原告と右破産者の間にあつたこと、前記広告掲載料二億九、五一八万七、五五七円に対する右割戻の額は別表A記載から「スポーツニツポン」大阪版を除く合計五、四九四万五、〇一二円であること、右破産者は右原告に対し昭和三六年八月七日から同年九月三〇日までの間に別表A記載のように右広告掲載料として合計二、〇七〇万〇、〇二九円を支払つたことが認められる。従つて原告毎日新聞社が右破産者に対して有する破産債権としての広告掲載料債権は二億一九五四万二、五一六円となるわけである。原告毎日新聞社は右の外「スポーツニツポン」大阪版広告掲載料合計五八万八、五八三円も右の破産債権であると主張しているが、証人杉山秀夫の証言により真正に成立したものと認められる甲第一一号証によれば右は株式会社スポーツニツポン新聞社の名義で請求がなされていると認められ他に原告毎日新聞社の右広告掲載料の請求権限を認めるに足りる証拠はないので右主張は採用できない。もつとも、被告等の主張により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一によれば原告毎日新聞社の右破産者に対する広告料の請求額が右破産者の広告依頼主に対するそれを上廻ることが窺がわれないでもないが、前掲各証拠と対照すると破産者がその独自の責任と営業政策とによつて、いわゆるダンピングをしていたものと考える外はなく、右の事実は前記認定の妨げとはならない。前掲甲第一、第二号証の各一、二、証人永山昌一の証言によれば甲第一号証の二(右破産者の原告毎日新聞社に対する未払金補助簿)、第二号証の二(右破産者の原告毎日新聞社に対する支払手形補助簿)には、右破産者に対する破産宣告後、または右帳簿等に対する保全処分後に記入されたものがあることが認められるが、右の事実はもとより右各書証の記載内容に対する信頼性を奪うものではない。
(二)、(貸金債権)証人永山昌一の証言によれば、原告毎日新聞社は右破産者に対し昭和三七年七月五日二、〇〇〇万円を支払期日内金一、〇〇〇万円については同年九月五日、内金一、〇〇〇万円については同年一〇月五日とする約束で貸し付け、現金(小切手を含む)を交付し、右破産者から同年九月五日一、〇〇〇万円、同年一〇月五日五七〇万円の弁済を受けたことが認められる。従つて右債権残額は四三〇万円である。
(三)、(手形割引料債権)証人永山昌一の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証、同杉山秀夫の証言によれば、原告毎日新聞社と破産者との間には原告毎日新聞社が破産者から前記広告掲載料支払のために交付を受けた約束手形について、右原告が銀行から手形の割引を受けた場合には、右原告は右手形割引料相当額を全額右破産者から償還を受けることができる旨の特約があつたこと、右特約にもとずき昭和三五年一二月一日から昭和三六年九月三〇日までに発生した手形割引料債権額は四九九万〇、六一九円であることが認められる。
四、(原告東京放送の債権)証人永山昌一の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第四、第五号証の各一、二証人塩原輝鷹の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一五号証によれば、原告東京放送は破産者からの申込をうけて昭和三六年三月一日から同年九月三〇日までの間にその営業とするラジオ、テレビの広告放送をなし、その広告放送料は別表B記載のように合計一億六一〇円であること、原告東京放送と破産者との間の右広告代金支払は原則として毎月一日から一五日までに広告放送したものは一五日〆切同月末日払とし、一六日から月末までに広告放送したものは月末〆切翌月一五日払となつていたこと、右の広告放送料は一定の料金率が原告東京放送と右破産者との間できまつていたこと、右放送料から一定率の手数料相当額を右破産者に割戻す特約が原告東京放送と右破産者の間にあつたこと、右広告放送料一億六一〇円に対する割戻は別表B記載のように合計一、六三二万七、八一五円であること、原告東京放送には破産者に対して支払うべき別表B記載の出演料、広告料合計三〇万円の債務があり、右原告は昭和三六年九月ごろ本件広告放送料債権をもつて、破産者の債権と対当額において相殺する旨の意思表示をなし、その意思表示はそのころ、右破産者に到達したこと、さらに破産者は原告東京放送に対し昭和三六年五月一日から同年九月三〇日までの間に合計五七一万九、五六七円を右債務の弁済として支払つたことが認められる。そうだとすれば原告東京放送の破産者に対する破産債権額は七、七六五万三、二二八円となるわけである。もつとも被告等の主張により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一によれば原告東京放送の破産者に対する広告料の請求額が右破産者の広告依頼主に対するそれを上廻ることが窺がわれないでもないし、前掲甲第四、第五号証の各二、証人永山昌一の証言によれば、甲第四号証の二(右破産者の原告東京放送に対する未払金補助簿)、第五号証の二(右破産者の原告東京放送に対する支払手形補助簿)には右破産者に対する破産宣告後、または右帳簿等に対する保全処分後に記入されたものがあることが認められるが、いずれも前記認定の妨げとなるものでないことは原告毎日新聞社について述べたと同様である。
五、(被告等の相殺の抗弁)被告等は、原告等は昭和三六年九月末ごろ同年一〇月分以降の右破産者が取り扱つた広告の広告料を広告依頼主から直接その支払をうけ、その仲介手数料を原告等が右破産者に対して有する債権と対当額において相殺することをきめ、そのころ破産者に対し右相殺の意思表示をなした旨、あるいはそのころ破産者との間で右のような内容の相殺の契約をしたと主張するが、被告等主張の単独行為としての相殺の意思表示または相殺契約がなされたことを認めるにたりる証拠はないので被告等の右主張は採用できない。
六、(被告等の権利濫用の抗弁)権利の濫用に関する被告等の主張についての証拠調の結果によつては原告等の本件債権額の確定を目的とする請求が権利の濫用であると判断し得る事実関係を認定し得ず、被告等の立証は破産宣告に至る手続の過程において問題となり得たかも知れない事柄にかかるものに留まるから被告等の右主張は採用できない。
七、(結論)よつて原告等の本訴請求は主文に掲げた限度で正当であるからこれを認容し、原告毎日新聞社のその余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 畔上英治 輪湖公寛 竹重誠夫)